【セミナーレポート】 木暮人連続セミナー:森と木が育む健やかな暮らし

【セミナーレポート】 木暮人連続セミナー:森と木が育む健やかな暮らし

第3回 木材の乾燥方法で全然違う ~家と家族の健康を願うなら、天然乾燥という選択!~
講演:「榊原商店」代表、「天竜T.S.ドライシステム共同組合」理事 榊原康久

2017年7月15日(土)

機械で木を短期間で乾燥させる人工乾燥が一般的な乾燥方法として行われているのが今の現状だが、今回のセミナーでは、木を強制的に乾燥させた人工乾燥の木材と、1年以上をかけてゆっくりと乾燥させた自然乾燥の木材をデータや体験をもとに比較する時間を設けた。香りや触り心地はもちろん、強度など材質にも大きな差が出る天然乾燥の良さ、そして、月齢伐採で伐った木と一般伐採した木の違い。自然のものである木を、自然のリズムに合わせて利用した時の木の本当の良さと優れた木の力を体験できる時間となった。

月齢伐採と葉枯らし天然乾燥、そして木の情報管理にこだわる理由
日本の昔ながらの方法である月齢伐採と葉枯らし天然乾燥した木材の提供を特徴としている「榊原商店」代表と「天竜T.S.ドライシステム共同組合」の理事を務めている榊原康久(さかきばら・やすひさ)さん。今回のセミナーでは、「木は言葉では説明しづらいもの」だと語りながら、実際に様々な木材を持ってきて、参加者が天然乾燥の木材と人工乾燥の木材を比較・体験できる機会を作ってくれた。
月の満ち欠けという自然が刻むリズムに合わせて新月に向かう時期に限って伐採を行うのが月齢伐採である。また、伐採の時期は、木の成長が止まる8月のお盆過ぎから2月の間に限る。春から夏にかけては、木の中の養分が多くて虫やカビが付きやすい木材になるため、この時期は木を伐らないようにしている。
葉枯らし天然乾燥は、伐採した木を葉が付いたまま3ヶ月以上山に寝かせておいた後、屋外で半年から1年以上かけて天然乾燥させる乾燥方法である。高温で強制的に乾燥させる人工乾燥だと、約3日で木は乾燥するが、人工乾燥では木の良さを殺してしまうと言う。天然乾燥では、木の色、ツヤ、香りなどはそのまま維持され、カビや腐りに強く、内部割れもない丈夫で長持ちする良い木材になると語る。
この二つの特徴と共に、天竜T.S.ドライシステム共同組合では、木がどこで伐採されたかを確認できない今の流通方法を改善するため、バーコードで伐採の日時、場所、人、葉枯らし期間などの情報を管理している。最終的にはQRコードにして、お客さんがスマートフォンで木の情報を確認できるように改良中である。

人工乾燥の木と天然乾燥の木の違い
一般的に今の建築に使われる木材やホームセンターで売っている木材は、ほとんどが人工乾燥の木材である。 一般的には、約80度の温度で3日間乾燥させて、合板ではそれに接着剤などの多くの科学物質が使われて製品となる。1年以上の時間と手間をかける天然乾燥の木材に比べると安いのは事実だが、木材の質は、大きな差が出る。
木材の強度を比べると、高温で人工乾燥させた木材は内部割れが起きやすい反面、天然乾燥した木材は内部割れが見られない。木材を高温で乾燥させると、木材が外側から乾燥していくため、外側に比べて内側はあまり乾燥しなくなる場合が多い。その乾燥値の差が大きくなると、外側が内側を引っ張って内部割れが発生することになる。それが人工乾燥で内部割れが起きやすい理由である。このような木材を家の構造材に使った場合、時間が経つにつれて強度が弱まることはもちろん、地震などの災害にも弱くなる。一方、天然乾燥した木材は、200年ほど経つと徐々に強度が弱まりはじめ、約1,000年かけてゆっくりと老化していくという。

新月伐採の木と一般伐採の木の違い
また、月齢伐採した木は一般伐採した木よりでんぷん質の含有量が少なく、「腐りにくい、カビにくい、狂いにくい」といった特徴を持っている。
NPO法人新月の木国際協会のデータを見ると、満月に伐った木はシロアリなど虫に弱い反面、新月に伐った木は虫にも強いことが確認できる。その他にも、冬の時期に伐った木と春夏に伐った木は年輪の密度に差を見せ、カビの実験でも差を示している。
京都大学や一般社団法人木暮人倶楽部で行ったでんぷん量の比較の実験でも、普通に伐採した木に比べてでんぷん量が少ないことが明確になっている。
今回のセミナーでは、実際に新月時の伐採の木と満月時の伐採の木を見て、触って比べたり、人工乾燥の木と天然乾燥の木の香り、触り心地、色、ツヤなどを体験することもできた。

自然のものを自然のリズムに合わせて利用する知恵
自然のリズムに合わせて伐った木、そして自然のリズムに合わせて乾かした木の素晴らしさ。世の中では根拠のないことだと批判されることもあったというが、今まで行われた多くの実験データがその優れた違いを示している。何より、実際に五感を使って体験してみると、その違いを感じることができる。
自然と離れ、人工的な環境で暮らしている今の時代だからこそ、人が本質的に持っている自然さを取り戻すことが大事ではないだろうか。現在、日本全体の木造建築の中で、月齢伐採や葉枯らし天然乾燥の木を使った比率は1%も満たないと言われる位少ない。しかし、人が毎日を過ごす家というものは、人間を取り巻く環境の中で一番大事な空間である。今すぐ環境を変えることはできないとしても、世の中に溢れている情報の中で、自分に合う本当の良さを探し続けることが必要な時代でもある。今回のセミナーは、自然に寄り添う営みが未来に繋がることを認識できる時間だった。

レポート:鄭美羅(チョンミラ)