【インタビュー】4代目の左官業を継ぐ『株式会社漆喰九一』の福田正伸さん
【インタビュー】4代目の左官業を継ぐ『株式会社漆喰九一』の福田正伸さん
<4代目の左官職人、4代目続いている「漆喰」への愛>
愛知県名古屋市で『株式会社漆喰九一』を経営している左官職人、福田正伸(ふくだ・まさのぶ)さん。『株式会社漆喰九一』はお城、お蔵、旅館など歴史のある建物から現代の建築を跨ぐ左官業の仕事以外にも、独自な方法で開発した様々なオリジナル漆喰を製造・販売・施工しているのが一番の特徴である。それは、4代目続いている左官職人家の知恵、そして「漆喰」に対する愛情と信頼があるから可能なことではないだろうか。
福田さんが初めて左官業に入ったのは24歳の頃、お父さんの仕事を手伝いはじめてからだった。もともと高校で工業科学を学び、航空宇宙産業に勤めていた彼は将来の見えない左官業を1ヶ月で辞めようと思ったと言う。しかし、「最低3年はやってみろ」と、当時現場で一緒だった大工さんの話を聞いて、最初は悔しくて意地を張る感じで続けるうちに「すごいこと」を見つけたのだった。
当時、異業種の人々が集まる交流会で、世の中で流行っている仕事をしている企業家たちに、大昔から長い間続いている左官業のすばらしさを逆に気づかせてもらったのだ。それは左官業を、そして漆喰を今までとは違う視点で見るきっかけとなった。中にいるから気づいていなかった漆喰のすばらしさを再発見し、4代も続いてきた漆喰業に独自の新たな工夫を足していくようになった。2013年に立ち上げた『株式会社漆喰九一』の社名も1代目の曾お爺さんの名前「福田九一」から借りてきた。先代たちが歩んできた道への敬意が込められている。
<漆喰の再発見、「漆喰は命を守ります!」>
福田さんは「漆喰は命を守ります!」と語る。何千年も前から暮らしの中にあった漆喰は、火災や病から身を守る「歴史の証拠」でもある。昔のヨーロッパの街で見られる白い漆喰の壁も伝染病から人を守る抗菌対策の役割を果たしてきた。漆喰の塗り壁は耐久性や断熱性、温度・湿度の調節はもちろん、抗菌や防臭の機能も持っている。
実際に、お客さんからも色んな体の変化や実感の声が届いてくる。昼夜が逆転していた子供のライフサイクルが通常に変わってきたり、「よく眠れる」、「落ち着く」などの声が多い。その中には、「数日間窓を開けずにいたのに空気がきれいで気づかなかった」というお客さんもいた。
福田さんは仕事をしていくほど「漆喰が持つ社会での役割を感じる」と語る。特に、住まいの環境で空間は大事な存在であり、漆喰と左官業はその空間作りに直結している。だからこそ、自然原料にこだわり、人に優しい住まいの環境を作るために色んな研究を重ねている。
合成樹脂や化学接着剤を使わず、自然素材にこだわり、独自の原料を配合した様々なオリジナル漆喰の研究・開発に力を入れているのもその一環である。社名をかけたオリジナル商品「九一漆喰」は、国産素材を厳選して製造する自然素材100%の練り漆喰である。「天竜すぎのこ漆喰」は、天竜で月齢伐採して天然乾燥した天竜杉のおが粉を漆喰に配合して作られた、杉の香りと空気浄化力、温かみが特徴である漆喰。他にも、滑らかなクリーム状で刷毛でも塗れる「刷毛塗り漆喰」などを開発・販売している。また、現在の様々な住まいの環境に対応できるようにオーダーメイド漆喰や漆喰DIYも支援している。
<漆喰の良さを世の中に広めるのが宿命>
福田さんはそこからもう一歩進み、より安全で、より手軽に使える漆喰の開発やお客さんの希望やこだわりに合わせた商品の開発を手掛け、さらには、漆喰のすばらしい特性に関する検証研究を通じて、漆喰の良さを広めている。
しかし、福田さんは「漆喰」に関わる職人としてだけのテーマにこだわらず、漆喰や左官業とまったく関係のない色んな場所で色んな世代の人と交流しながら、実際に人が必要とするニーズに答える方法を探し続けている。なので今でもボランティアで左官工事に行って、他の左官屋と交流したり、様々な工法を勉強してもいる。
会社の漆喰の部屋で毎月第3土曜日の午後に行われる「漆喰サロン」もその一つの活動である。お茶を飲みながら、街のお年寄りや訪ねてくる色んな経験を持っている人の話を聞く「漆喰サロン」は今年で5年目になる。「最初から漆喰の話はしない」と決めて続けている「漆喰サロン」は、漆喰や左官業とは直接関係のない活動のように見えるかも知れない。しかし、福田さんは人と人が繋がり、どんなことをすると楽しく過ごせるのかをそこで学んでいると言う。人が住む空間を作ることは、人を知ることから始まるからだ。
福田さんは4代も続いている左官職人として、漆喰が持つ社会での役割を何より楽しく人と繋がることで実現している。それは、色んなことを教えてもらった先代への感謝と恩返しでもある。福田さんはこうやって現代の「漆喰」を通じて過去と未来を繋げている。
取材 : 鄭美羅(チョンミラ)